大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和50年(行コ)49号 判決 1977年3月29日

控訴人 住吉税務署長

訴訟代理人 服部勝彦 大河原延房 ほか三名

被控訴人 野中義郎

主文

原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

一、控訴人が昭和四一年一一月一七日付でした被控訴人の昭和四〇年分所得税の総所得金額を七七万八、一〇〇円とする更正のうち、三五万四、六九七円を超える部分を取消す。

二、被控訴人の控訴人に対するその余の請求を棄却する。

三、控訴人と被控訴人との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人に関する部分を取消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(一)  原判決事実摘示の補正<省略>

(二)  当審における証拠の提出、認否<省略>

理由

当裁判所は、控訴人が昭和四一年一一月一七日付でした被控訴人の昭和四〇年分所得税の総所得金額を七七万八、一〇〇円とする更正のうち一三万七、五〇〇円を超える部分の取消を求め、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、三五万四、六九七円を超える部分にかぎり正当として認容すべきであるが、その余は失当であつて排斥を免れない、と判断する。その理由として、以下のように補正のうえ、原判決理由中の控訴人に関する説示部分(原判決理由第一、第二項)を引用する。

1  原判決一三枚目表九行目から一四枚目裏四行目までおよび同判決添付「別紙計算式」(9)ないし(13)の記載を削除する。

(なお、原判決は右削除部分において、控訴人主張にかかる昭和四〇年分売上金額算出過程に誤りがある旨説示しているが、その説示は控訴人の収集した実調資料のうちの各在庫金額が販売価額であることを前提とするものであるところ、弁論の全趣旨によれば、右各在庫金額は販売価額ではなく、仕入価額によるものであることが明らかであり、そうとすると、前記売上金額の推計については控訴人主張のとおり操作が必要であつて、その算出過程に原判決指摘の如き誤りはないことになる。)

2  同判決一四枚目裏五行目の「次に、」を「そこで、」と改め、<省略>同一六枚目表六行目、同表三行目(二ヵ所)、同九行目の各「在庫金額」の次にそれぞれ「(仕入価額)」を挿入する。

3  同判決一七枚目表一一行目の「しかしながら、」を「ところで、<証拠省略>」と、同末行の「五〇名以上」を一四〇名程度」と、各訂正し、同裏五行目の「少なく、」から七行目までを「少ないけれども、前認定の収集方法からすれば、これによつて得られた前記実調資料は、同業者全体の数値の分布状態をほぼ正確に反映しているものとみることができる。」と改める。

4  同判決一七枚目裏八行目の「いま」を「しかし、」と、同一八枚目表四行目の「七例)。」を「七例)ところ、」と、各改め、同行の「本件実調率」から同裏一行目の「ちなみに、」までを削除し、同八行目から同一九枚目裏一行目までを以下のとおり改める。

きであるのにかかわらず、この点を考慮しないで、直ちに前記の平均回転率により被控訴人の昭和四〇年分売上金額を推計する方法は、右平均回転率採用のかぎりにおいて合理性を欠くものといわなければならない。けれども、前記のように控訴人収集にかかる実調資料が同業者全体の数値の分布状態をほぼ正確に反映しているといい得ることからすると、右平均回転率に替えて前記回転率の最低値一・二二回を採用するならば、それは被控訴人方の商品回転率の最低限を画するものとして合理性を有する数値と解することができる。

(三) 被控訴人の昭和四〇年分所得税算定についての特別経費(地代・家賃)が六万二、〇五〇円、専従者控除額が一一万二、五〇〇円であることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、昭和四一年九月一二日現在の被控訴人方の商品在庫金額(売価)は二八三万八、九七五円であつたことが認められる。また、控訴人の収集した各種実調資料、実調率が原判決添付別表一ないし三記載のとおり(ただし、各別表中の「在庫金額」はいずれも仕入価額)であることはすでに認定したところである。そして、以上の諸資料に基づく前説示の控訴人主張にかかる昭和四〇年分被控訴人所得の推計方法(引用にかかる原判決一二枚目裏一一行目から同一三枚目表八行目まで)そのものには合理性に欠ける点がないものと認められるので、前記理由により被控訴人につき適用すべき商品回転率を一・二二回として、右推計方法に従い、被控訴人の昭和四〇年分所得金額を算出すると、原判決添付の「別紙計算式」(1)ないし(4)ならびに本判決別紙(5)ないし(9)の算定経過により三五万四、六九七円となる。

(四) 以上により、被控訴人の昭和四〇年分総所得金額は少くとも三五万四、六九七円と推計され、その推計方法、従つて、推計結果にも不合理はないものと解されるけれども、右総所得が右金額を超えるものであることを肯認するに足りる証拠はない。そうすると、控訴人が昭和四一年一一月一七日付でした本件更正のうち、右金額を超えて被控訴人の総所得金額を認定した部分は違法というべきであるが、その余の部分は相当といわなければならない、従つて、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、右違法部分の取消を求める限度で理由があるから認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れないこととなる。」

よつて、以上に説示したところと結論を異にする原判決を右の趣旨に変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達藏 荻田健治郎 尾方滋)

(別紙)

(5) 昭和40年分売上金額

昭和40年分平均在庫金額 1,478,556円

×商品回転率1.22回 = 1,803,838円

(6) 昭和40年分売上原価

売上金額1,803,838円×平均原価率60.44% = 1,090,239円

(7) 平均経費率

100%-原価率60.44%-所得率29.34% = 10.22%

(8) 昭和40年分一般経費

売上金額1,803,838円×平均経費率10.22% = 184,352円

(9) 昭和40年分所得金額

売上金額1,803,838円-(売上原価1,090,239円+一般経費194,352円+特別経費62,050円+専従者控除112,500円)= 354,697円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例